2023年12月1日、翌日の「古都奈良の文化財」世界遺産登録25周年を前に、奈良市観光協会は「新・南都八景」を公表しました。
これは、世界遺産25周年記念事業の一つとして実施されたものです。市内8か所の世界遺産登録施設を題材に、事前に決められた候補の中からインターネットで一般投票が実施されました。
新・南都八景
▶東大寺
「二月堂の眺め」
▶興福寺
「若草山からの興福寺遠望」
▶春日大社
「春日鳥居の前でたたずむ鹿」
▶春日山原始林
「滝坂の道」
▶元興寺
「日本最古の屋根瓦」
▶薬師寺
「南大門付近からの白鳳伽藍全景」
▶唐招提寺
「金堂」
▶平城宮跡
「平城宮跡の空」
南都八景
奈良市公式サイトの解説によると、オリジナルの「南都八景」は室町時代の史料に初めて登場し、名所絵図などに描かれたとのことです。
▶「東大寺の鐘」
東大寺境内に現存(国宝)
▶「春日野の鹿」
現在の奈良市春日野町には天然記念物「奈良のシカ」が生息。該当住所の北隣に「奈良公園春日野園地」があり、こちらにも「奈良のシカ」が生息。
▶南円堂の藤
興福寺南円堂前にフジがあります。
▶猿沢池の月
「奈良公園猿沢池園地」として現存
▶佐保川の蛍
佐保川に蛍が生息していることは聞いたことがありません。
▶雲井坂の雨
奈良公園バスターミナル北側の国道の阪。県営登大路駐車場から国道を渡ったあたりに石碑があります。
▶轟橋の旅人
雲井坂の碑のすぐ近くの歩道に痕跡が残っています。奈良公園界隈にあり現在も観光客が多く通行します。
▶三笠山の雪
現在「若草山」と呼ばれる山。春日大社境内の「御蓋山」とは異なる。現在のこの界隈は降雪はあっても積もることは年に1度歩かないかです。
筆者の感想
ここからは筆者の感想です。
ユネスコ世界文化遺産「古都奈良の文化財」の構成資産が8か所あり、世界遺産登録25周年に「南都八景」と重ね合わせて、構成資産の美しい光景を紹介する事業を展開なされたと推察できます。
室町時代の「南都八景」は、轟橋や佐保川の蛍など現存していない光景もあり、現在の観光ルートにあてはめて「万人受けする観光」として案内するにはやや難があります。しかしながら、「南都八景」そのものが廃止になったワケでもなく、古くなったワケでもなく、現在の「ツーリズム」に通ずる南都の社寺への参拝に訪れる室町時代往事の光景を想像するスポットとして、改めて「南都八景」を巡ることも良いでしょう。
さて、令和の世になって発表された「新・南都八景」は、令和の人々の感覚が大いに繁栄されたという感想を抱いています。
また、公式サイトには「写真映えするスポット」という旨や、インターネットでのオンライン投票など、室町時代では当然ありえない選定方法であるともいえます。
「南都八景」は現在でいう奈良公園界隈のみですが、世界遺産構成資産である「平城宮跡」「唐招提寺」「薬師寺」も選定されています。
室町時代には日本中にあったありふれた幹線道路であったと想像できる「滝坂の道」は江戸時代の舗装工事を経て現在ではハイキングコースとして観光資源の一つとなっています。
元興寺の「日本最古の屋根瓦」は文化財登録の視点から注目すべき光景と言えるでしょう。
春日大社の鹿は、新旧ともにほとんど同じ内容で登場し、当時も現在も奈良のシンボルとして活躍している証拠です。
そもそも室町時代には「平城宮」の跡地がどこにあるのかが不明であったはずです。平城宮跡の特定は江戸末期から明治、大正にかけてに行われたことであり、現在は復原工事が続けられています。新たに復原された建物が選定されたわけではなく、「空」という室町時代にもあったはずの光景が選ばれたのは、建物に囲まれた生活する令和の私たちが求めている何かが込められているのかと想像します。
おわりに
古くから現在の「ツーリズム」(=観光)に通ずる参拝客を多く迎えてきた奈良では室町時代の観光ガイド「南都八景」と、令和の映えスポット「新・南都八景」があります。
奈良観光の歴史をたどるにおいて、世界遺産25年を記念して巡ることはいかがでしょうか。
参考文献
古都奈良の文化財 世界遺産登録25周年記念サイト>『古都奈良の文化財』新・南都八景について
https://kotonara25.jp/event/hakkei.html
奈良市>ならまち歳時記~6月~ 南都八景-佐保川の蛍-
https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/5689.html
奈良県>若草山の移動支援について(PDF)
※三笠山の定義の確認のために使用